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上新電機 Research Memo(7):2027年3月期に営業利益100億円、ROE7.0%の達成を目指す(2)

*11:07JST 上新電機 Research Memo(7):2027年3月期に営業利益100億円、ROE7.0%の達成を目指す(2)
■上新電機<8173>の今後の見通し

2. 新中期経営計画「JT-2028 経営計画」の概要の続き
(4) 3つの重点戦略
1) リアル店舗事業の収益力強化
2025年9月末時点の直営店舗数は210店であるが、店舗間の収益格差が課題となっている。新中期経営計画では「数ではなく質」で勝負する方針を明確にし、店舗価値の再構築を最優先課題としている。例えば、店舗の立地特性や顧客層に応じて「タイプ別マーケティング」を導入し、地域特性に沿った売り場づくりを推進する。また、異業種とのコラボレーションも視野に店舗空間の再設計を進めることで、リアル店舗を単なる販売拠点ではなく「地域の生活提案拠点」として再定義する構想である。

2) PB(プライベートブランド)商品の本格展開
次の柱はPB商品の拡充である。500SKU(SKUとはStock Keeping Unitの略であり、一般的には受発注や在庫管理を行う時の最小管理単位)以上の新規開発を目指し、PB売上構成比10%、粗利率は2025年3月期比で5%改善を目標に掲げている。まずは中小物家電中心からスタートし、将来的にはエアコンなどの大型家電にも拡大する方針である。同社はこの実現に向けてPB専任部門を新設し、外部から商品企画・品質管理の専門人財を採用した上でOEMメーカーとの協業を進める体制を整備する。PBの強化は他社との差別化と収益力向上の両立を図る中核戦略であり、「家電量販店版マチの電器屋」を体現する要素と位置付けられている。

3) マーケティング機能の再構築
3つ目はマーケティング機能の刷新である。これまでの販売促進型から顧客起点のデータドリブン型へ転換する。とりわけ女性・若年層へのリーチを強化し、顧客層のバランスを最適化することをねらう。アクティブ会員数は年率1%増を目標とし、自社のビッグデータと社外ネットワークを活用した「1to1マーケティング」を深化させる。また、「ジョーシンスマイルプログラム(リアル店舗とECでの利用状況に応じて特典を利用することができるサービスであり、会員ランク決定のための集計期間は2年間)を軸として店舗とECを横断的に活用するOMO戦略(オンラインとオフラインを融合することによって顧客体験の質を向上させるマーケティング戦略)を推進する。リアル店舗とECの相互送客を強化し、顧客生涯価値(LTV)の最大化を図る。

(5) 資本政策
資本政策の柱は「効率性と成長の両立」にある。2027年のリース会計基準改正も見据え、バランスシートの最適化を進める方針であり。資本コストや株価を意識した経営を徹底し、キャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)や交叉比率(粗利益率×商品回転率により算出)の改善を推進する。とりわけ「在庫の適正管理」を最重要課題と位置付け、在庫回転率向上を通じてFCF創出力を高める方針である。

キャッシュ・フローは中計3年間で営業キャッシュ・フロー累計350億円~400億円を目指す。創出したキャッシュの使い道は、成長投資全体で70~75%、株主還元で15~20%と配分する方針である。投資内訳としては、店舗関連180億円、物流関連20億円、事業領域拡張関連60億円を計画している。株主還元については、配当性向40%以上、DOE2.5%以上を目安とし、安定的かつ持続的な配当を実施する。加えて、政策保有株式を純資産の3%未満にまで圧縮することで資本効率を一段と高めるとしている。

(6) 所感
今回の中期経営計画「JT-2028 経営計画」は、上新電機がこれまでの「守りの経営」から「攻めと再構築」に転じる転換点となる内容だと評価できる。特に注目すべきは、「家電量販店版マチの電器屋」という新しいポジショニングである。大型家電量販店が画一的な店舗運営から脱し、地域特性に応じた柔軟な価値提供を志向する姿勢は、少子高齢化・地方分散という日本市場の構造変化に対する合理的な対応と言える。

一方で、実行段階では課題も多い。既存店舗の収益格差是正には現場力の底上げが不可欠であり、PB商品展開の成功には開発体制の早期立ち上げと品質確保が前提となる。マーケティング再構築においても、データ利活用と人財育成のスピードが競争優位を左右するだろう。とは言え、計画全体としては、財務目標の明確さと資本政策の一貫性に注目したい。配当性向とDOEの両方を明示し、株主還元方針を数値で示した点は評価できる。加えて、重点戦略の実行により「地域密着×デジタル変革」を進める構想は業界内でも独自性が高い。

総じて、「JT-2028 経営計画」は同社の構造的変革の序章と言える。収益性の改善が計画どおり進めば、同社は家電量販業界において再び存在感を高める可能性がある。高橋社長の掲げる「破から離へ」という言葉が現実のものとなるか、今後3年間の動向を注視したい。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 吉林 拓馬)



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