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筑波精工 Research Memo(1):主力事業は高度な電界技術を使った静電チャック。電気自動車の普及は追い風
2024/07/04 14:31
*14:31JST 筑波精工 Research Memo(1):主力事業は高度な電界技術を使った静電チャック。電気自動車の普及は追い風
■要約
筑波精工<6596>の主力事業は、電界による吸着保持技術を生かした静電吸着システム「静電チャック(E-Chuck)」(以下、静電チャック)である。国際特許を保有している高度な技術でありながら、過去においてはあまり多くの需要が期待されていなかった。しかしここ数年で同社を取り巻く環境は変わりつつある。自動車の電気化(EV化)が急速に進む現在、航続距離をさらに長くすることが大きな課題となっているが、これを克服するために、搭載されるパワー半導体の薄型化が重要となってきたからだ。薄型半導体の製造プロセスで使用される同社の静電チャックに注目が集まっている。現在の売上高はまだ少額だが、自動車のEV化が進むなかで、今後の動向が注目される。
1. 会社の沿革と主な事業内容
同社は、電気機械器具の製造販売並びに電気機械器具の検査、測定、治工具及び金型の販売を目的として、1985年に栃木県真岡市熊倉町で設立した。設立当初は三洋電機(株)の半導体の後工程関係の設備を設計・販売していたが、並行して社内で開発を進めてきた静電チャックの開発に目途が付いたことから、2002年からは静電チャックの研究開発と静電チャック関連製品の販売に絞り事業展開してきた。
2. 2024年3月期の業績(実績)
2024年3月期の業績は、売上高は326百万円(前期比49.3%増)、営業損失は6百万円(前期は82百万円の損失)、経常損失は7百万円(同82百万円の損失)、当期純利益は30百万円(同91百万円の損失)となった。当期純損失が黒字化したのは、デモ用機器の販売により特別利益(59百万円)を計上したことによる。営業損失を計上したが、2023年秋に同社が使用するレーザー加工機に不具合が生じ、外注費が予想以上に膨らんでしまったことが要因の一つであり、仮にこのようなことがなければ、営業損失は黒字となっていたようだ。期中のトピックスは、初めて量産用の自動機2台(8インチ用1台、12インチ用1台)を販売したことだ。手元の現金及び預金は352百万円と売り上げ規模に比べて比較的豊富であり、財務上の不安はない。
3. 2025年3月期の業績予想
2025年3月期の業績は、売上高は370百万円(前期比13.6%増)、営業利益は6百万円(前期は6百万円の損失)、経常利益は5百万円(同7百万円の損失)、当期純利益は1百万円(前期比95.2%減)と予想している。上記の量産用自動機2台の販売に伴い、「Supporter(R)(以下、「Supporter」)」の売り上げが期待できることから増収を見込んでいる。さらに足元では、数台の自動機の引き合いがあるようだが、これらは受注規模や時期が不確定であることから、今期の予想には含まれていない。仮に進行中の案件が受注に結び付くようであれば、今期の業績が上振れする可能性はあると弊社では見ている。今後は12インチ向けを含めて、量産用の需要が一気に高まる可能性があり、同社の「Supporter」の動向は注視する必要がある。
4. 中長期の展望:EV車の長航続距離化は追い風
同社の今後の成長マップは、自動車のEV化のさらなる進展→長航続距離化が必須→IGBT※1等のパワー半導体の薄型シリコンウエハ(以下、ウエハ)での生産の必要性→「Supporter」の需要増となる。今までの需要は主に試験用であったことから、現在まで業績は低迷していた。しかし前期に初めて量産用の自動機を販売し、今後は自動車のEV化・長航続距離化に伴うパワー半導体のさらなる薄型化が見込まれるため、将来は明るいと言える。顧客側は12インチプロセスの増強を進めているが、今のところ12インチの静電チャックでは、同社製品以外に競合は見当たらない。そのため、12インチウエハによるパワー半導体の生産が本格化すれば、同社製品への需要がさらに増加する可能性はある。またEV自動車用の需要以外にも、携帯電話向けや自動車向けの高速バッテリーチャージャーの需要も増加しており、その必須部品であるMOSFET※2半導体の生産工程においても同社製品が使われる可能性が高い。
※1 IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲート型バイポーラートランジスタ)は、パワー半導体(より高い電圧、より大きな電流のコントロールを可能にする)の一種である。用途としては、“電気で動き、パワーの強弱を調整できるもの”で、電車や自動車(ハイブリッド車(HEV)やEV)、IHをはじめとする家庭調理機器やエアコン、冷蔵庫、洗濯機などがある。
※2 MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field Effect Transistor:絶縁ゲート電界効果トランジスタ)は、スイッチデバイスの一種。スイッチデバイスは電源を入れることで様々な機能を動かすための装置へ電力を供給する。その際に、入力電圧を各所出力電圧へ変換して電力供給することが必要である。例えば、パソコンであれば、液晶パネル、CPU、メモリやオーディオアンプ、USBコネクタなどを動かすために、MOSFETが入力電圧を変換し、電力を供給する。スイッチデバイスの中でもMOSFETは、電力を高効率に流し、低消費電力に優れ、製品の小型軽量化を可能にするものである。
■Key Points
・電界を用いた吸着システム静電チャックが主力事業。自動車のEV化で要注目
・2024年3月期に初めて量産用の自動機を販売、今後の展開に明るさ
・中長期の展望は楽しみだが、EV車の長航続距離化によって本格的に恩恵を受けるのは2026年3月期以降
(執筆:フィスコ客員アナリスト 寺島 昇)
<SO>
■要約
筑波精工<6596>の主力事業は、電界による吸着保持技術を生かした静電吸着システム「静電チャック(E-Chuck)」(以下、静電チャック)である。国際特許を保有している高度な技術でありながら、過去においてはあまり多くの需要が期待されていなかった。しかしここ数年で同社を取り巻く環境は変わりつつある。自動車の電気化(EV化)が急速に進む現在、航続距離をさらに長くすることが大きな課題となっているが、これを克服するために、搭載されるパワー半導体の薄型化が重要となってきたからだ。薄型半導体の製造プロセスで使用される同社の静電チャックに注目が集まっている。現在の売上高はまだ少額だが、自動車のEV化が進むなかで、今後の動向が注目される。
1. 会社の沿革と主な事業内容
同社は、電気機械器具の製造販売並びに電気機械器具の検査、測定、治工具及び金型の販売を目的として、1985年に栃木県真岡市熊倉町で設立した。設立当初は三洋電機(株)の半導体の後工程関係の設備を設計・販売していたが、並行して社内で開発を進めてきた静電チャックの開発に目途が付いたことから、2002年からは静電チャックの研究開発と静電チャック関連製品の販売に絞り事業展開してきた。
2. 2024年3月期の業績(実績)
2024年3月期の業績は、売上高は326百万円(前期比49.3%増)、営業損失は6百万円(前期は82百万円の損失)、経常損失は7百万円(同82百万円の損失)、当期純利益は30百万円(同91百万円の損失)となった。当期純損失が黒字化したのは、デモ用機器の販売により特別利益(59百万円)を計上したことによる。営業損失を計上したが、2023年秋に同社が使用するレーザー加工機に不具合が生じ、外注費が予想以上に膨らんでしまったことが要因の一つであり、仮にこのようなことがなければ、営業損失は黒字となっていたようだ。期中のトピックスは、初めて量産用の自動機2台(8インチ用1台、12インチ用1台)を販売したことだ。手元の現金及び預金は352百万円と売り上げ規模に比べて比較的豊富であり、財務上の不安はない。
3. 2025年3月期の業績予想
2025年3月期の業績は、売上高は370百万円(前期比13.6%増)、営業利益は6百万円(前期は6百万円の損失)、経常利益は5百万円(同7百万円の損失)、当期純利益は1百万円(前期比95.2%減)と予想している。上記の量産用自動機2台の販売に伴い、「Supporter(R)(以下、「Supporter」)」の売り上げが期待できることから増収を見込んでいる。さらに足元では、数台の自動機の引き合いがあるようだが、これらは受注規模や時期が不確定であることから、今期の予想には含まれていない。仮に進行中の案件が受注に結び付くようであれば、今期の業績が上振れする可能性はあると弊社では見ている。今後は12インチ向けを含めて、量産用の需要が一気に高まる可能性があり、同社の「Supporter」の動向は注視する必要がある。
4. 中長期の展望:EV車の長航続距離化は追い風
同社の今後の成長マップは、自動車のEV化のさらなる進展→長航続距離化が必須→IGBT※1等のパワー半導体の薄型シリコンウエハ(以下、ウエハ)での生産の必要性→「Supporter」の需要増となる。今までの需要は主に試験用であったことから、現在まで業績は低迷していた。しかし前期に初めて量産用の自動機を販売し、今後は自動車のEV化・長航続距離化に伴うパワー半導体のさらなる薄型化が見込まれるため、将来は明るいと言える。顧客側は12インチプロセスの増強を進めているが、今のところ12インチの静電チャックでは、同社製品以外に競合は見当たらない。そのため、12インチウエハによるパワー半導体の生産が本格化すれば、同社製品への需要がさらに増加する可能性はある。またEV自動車用の需要以外にも、携帯電話向けや自動車向けの高速バッテリーチャージャーの需要も増加しており、その必須部品であるMOSFET※2半導体の生産工程においても同社製品が使われる可能性が高い。
※1 IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲート型バイポーラートランジスタ)は、パワー半導体(より高い電圧、より大きな電流のコントロールを可能にする)の一種である。用途としては、“電気で動き、パワーの強弱を調整できるもの”で、電車や自動車(ハイブリッド車(HEV)やEV)、IHをはじめとする家庭調理機器やエアコン、冷蔵庫、洗濯機などがある。
※2 MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field Effect Transistor:絶縁ゲート電界効果トランジスタ)は、スイッチデバイスの一種。スイッチデバイスは電源を入れることで様々な機能を動かすための装置へ電力を供給する。その際に、入力電圧を各所出力電圧へ変換して電力供給することが必要である。例えば、パソコンであれば、液晶パネル、CPU、メモリやオーディオアンプ、USBコネクタなどを動かすために、MOSFETが入力電圧を変換し、電力を供給する。スイッチデバイスの中でもMOSFETは、電力を高効率に流し、低消費電力に優れ、製品の小型軽量化を可能にするものである。
■Key Points
・電界を用いた吸着システム静電チャックが主力事業。自動車のEV化で要注目
・2024年3月期に初めて量産用の自動機を販売、今後の展開に明るさ
・中長期の展望は楽しみだが、EV車の長航続距離化によって本格的に恩恵を受けるのは2026年3月期以降
(執筆:フィスコ客員アナリスト 寺島 昇)
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